2012年10月27日土曜日

アーミテージ&ナイ白熱討論


アーミテージ&ナイの討論会(http://www.nikkei-events.jp/hakunetsu/)に参加してきた所見。



1.      日本が米中の関係に関心を持っているのと同様に、米国も日中関係をはじめとする東アジアのパワーバランスに大きな関心を寄せている。日中関係においては、米国が影響力の低下した日本離れをするのではないかと憂慮する向きもあるようだが、今回の討論会において米国は明確に日本寄りのスタンスを示しているように私の眼には映った。一方でお互いが米国の同盟国である日韓関係では明言を避けており、やはり民主主義という価値観を共有する日本は米国の対立軸とはなり得ず、一方で、共産主義を堅持する中国は、どんなに経済的に力をつけようとも米国のカウンターパートである。

2.      米国の冷静な視点は、ヒートアップしがちな東アジアの領土問題を考える上で三角測量として有効である。今般の緊迫化においても、米国は静観するにとどまらず、非公式に両氏を日本と中国に送るなど実際のアクションを起こして事態の沈静化に努めているという意味で、ステークホルダーであり、彼らの見解は単なる第三者意見以上のものである。日中両国はおたがいが引くに引けない状況に陥っており、事態の打開のためには、領土問題に触れないというネガティブな対応に加え、米国など第三者を交えた協同管理が一つわずかに希望の持てる選択肢であろう。

3.      ナイ教授は、ソフトパワーの観点から明確に首相の靖国参拝を批判していた。戦没者の鎮魂は各国に任せるべきだという意見が多い中、彼のはっきりとした物言いは印象的だった。しかし、昨今中国や韓国で盛んに喧伝される日本の右傾化懸念については、明確に否定している。ナイ教授の主張は現実的であり、東アジア外交にマイナスになるだけの靖国参拝については批判を繰り返していた。

4.      日本の核保有の可能性については、対アジアのみならず、日米同盟にも悪い影響を与えるとして疑問符をつけている。NPTの枠組みを多大なる成功と評価しており、日本の核武装はNPTの枠組みを踏み外すものだからだ。会場の意見は、日本は核武装すべきでないという意見が大半を占めたが、領土問題を巡る中韓政府の先鋭化は、国内の強硬意見を後押しするもので懸念される。

5.      米国の強みは、両氏のように十全たる政治経験を積みつつも、政府以外の立場から発言し、外交に影響力を与えることのできる人材の豊富さにあると認識。まさにスマートパワーを体現している。彼らの意見は、米国の本音である一方で第三者としての意見である。「本音と建前」は日本文化の象徴として有名だが、米国外交も匠にこの本音と建前を使い分けているように感じられた。その背景には、「回転ドア」とも評される人材の流動性が確保されている政治制度、人材の豊富さがある。

6.      日本にも個人として影響力のある人物や政治家はいるが、外交となるとパーティや表敬に終始している印象。ロムニー陣営の副大統領候補ポール・ライアン氏のように、自らのポリシーや政策案をレポートのように明確に示す人は、米国政治の世界で評価される印象。両氏も対日政策提言をまとめた第三次アーミテージ・ナイレポートがあり、そのレポートの存在が彼らが単なる表敬でない何らかのメッセージを伝えにきているという強い印象につながる。そしてその本音は、社交辞令が飛び交う外交的な建前の世界で自らのメッセージを伝える賢い手段となる。

7.      両氏の印象は、ナイ教授がいかにもリベラル派でハーバードの先生といったいでたちである一方、アーミテージ氏は巨漢で隆々の胸筋がいかつい。これで共和党の穏健派というから穏健という響きとのギャップがあった。人はすぐ人のことを肩書きや派閥で判断しがちだが、民主党と共和党と異なる政党に所属している両氏の意見は大方一致していた。また、民主党政権が両氏を派遣した点は政党を超えて識者を活用しようとするオバマ政権の意図が感じられ意外であった。

8.      政治主導と官僚機構の質問に対し、官僚機構はwisdomであり、「過去になにがおこったかのライブラリー」である、という言葉は印象的であった。彼らが法律や政令を作成するとき、最も大事にするのは「前例」である。官僚機構とは日本国政府の膨大な歴史的資料を、現在そして未来に生かす組織である。膨大な積み重ねの上に今がある。それを扱うのは知性である。いろいろな批判があるにせよ、その点は理解しなくてはならない。そして必要なのは新しい知恵や工夫をもたらす人を中にいれることだ、という指摘にも納得。官僚機構の知性を良く理解していて、もし問題があるとすれば、それをコントロールする大臣にあるという。

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