2014年9月21日日曜日

TEDxKyotoに参加して

TEDxは「TED Talkの理念に共感した有志によるイベント」ということで、ローカルな手作り感あふれる企画なのかと勝手に思っていましたが、今日参加してそのクオリティの高さに感嘆するばかりでした。イベントの運営もそうですし、壇上にあがったスピーカーの方々もそれぞれにエッジが効いていて気づきがありました。今日得た気づきのいくつかをまとめておこうと思います。

(1)心を動かすスピーチの共通性
全体を通して非常に満足感の高いイベントだったが、その要因は2番目のスピーカーであったガー・レイノルズのトークに集約されているように思う。聴衆の側に立って、構想を練り上げ、はっきりとしたテーマを設定し、五感に訴えながら挑戦や変化、驚きを演出する。人の心を動かすスピーチやイベントはこうしたストーリーメイキングが入念になされている。スターウォーズのネタが聴衆を沸かせていたが、そのときジョセフ・キャンベルの「神話の力」を思い出した。「神話」=「人々に語り継がれるストーリー」にはいくつかの共通性がある。表層は様々に異なっていたとしても、人が心動かされるのは、挑戦、挫折からの復活、苦難の克服、弱気を助け強気をくじく勇気、自然への敬愛、愛と調和、などだ。TEDのイベントはそれぞれのスピーチがそうした要素を備えているだけでなく、全体としてもそうした要素によって成り立っている。だからこそ参加者は満たされた気持ちになるのだろう。

(2)ストーリーの力
数々のスピーチの中でもひときわストーリーの力が際立っていたのは、女優サヘル・ローズである。サヘルのストーリーには感動させられた。彼女が女優として人前で話し訴えかけることに長けていることもあったが、彼女のスピーチは養護施設で幼少期を過ごした自分のドラマチックな生い立ちから始まり、幾多の苦難を乗り越えてきた経験をもとに、養母から受け継いだ人の為に尽くそうとする奉仕、感謝と慈愛の精神に満ちていて、自然と心動かされる内容だった。彼女のメッセージはシンプルだ、親(大人)の愛情は子供にとって素晴らしいかけがえのないものであること、そしてその愛情を受けることが出来ない子供がたくさんいるということだ。彼女はスピーチの終盤で「サヘル・ローズ・ハウス」を作りたい、という彼女の夢を語る。人は安心を得られてはじめて夢を持つことができる、と彼女は語る。親の愛情を満足に受けられない子供達の為に子供達が安心して過ごせる「イエ」を用意して、夢を持たせてあげたい。彼女の想いはシンプルでありかつ自身の経験に根ざす強力なものだ。

(3)職人と技術の可能性
TEDxKyotoには日本の職人が多く壇上にあがった。井上は一流の鮨職人だ。彼は長年の修行で培った確かな技術に裏打ちされて、それにクリエイティビティを添える。彼が目指すのは、鮨とアートの融合であり、ますますグローバルに広まる鮨の新たな可能性の追求だ。荒川は京都の黒染め職人である。井上の鮨が世界に益々ポピュラーになっているのに対し、荒川の黒染めは急速に縮小する日本の伝統着物文化の危機の渦中にある。その状況下で荒川は、染め技術を応用したアパレルとのコラボや古着の黒染めプロジェクトを通じて、新たな形での黒染め技術の継承を目指す。急速に需要が縮小する伝統産業の中で、新たな可能性を見いだそうとする試みは、桶職人の中川も同じだ。中川は親から子へと伝承していく技術に、コンピューターを用いた新たな設計を加えることで、ワインボトルクーラー等のこれまでにない形の桶を生み出した。彼ら職人は、自身の培った確かな技術を守りつつも、創意工夫を加えることで、その技術の新たな可能性を模索している点で共通している。いままでもこれからも、素晴らしい技術は、職人から職人への継承とそれぞれの職人による創意工夫によって次の世代へと受け継がれるものなのである。

(4)平和な世界への試み
平和な世界を築こうとする多くの試みもこのTEDxKyotoでは紹介された。宗教の立場からは妙心寺退蔵院禅僧の松山のスピーチが印象的だった。宗教は人々に安心感を与える役割がある、にもかかわらず世界にはいまだに多くの宗教がいがみあっている、おかしいのではないか、という彼の問題意識は示唆に富んでいる。日本人は宗教観に乏しいと言われる、例えばクリスマス、除夜の鐘、初詣と切り出すお決まりのネタを持ち出しながらも、日本の仏教徒として、そうした日本人の独特な宗教観に、世界の平和と調和の可能性を見いだす彼の洞察はとても説得力に満ちている。宗教間駅伝の試みも含め、ユーモアにあふれ知的で、宗教家かくあるべしだと感じた内容だった。芸術は人類共通の感動をもたらす。そうした芸術の立場から平和を訴えるのが、冒頭に登場したシンガーソングライターの涼恵や芸術家のKya Kimだ。涼恵は神楽の音楽や舞を世界の人に感銘をもたらす独自の歌へと深化させた。Kimのピースマスクプロジェクトは、国境やジェンダーの垣根を越えて信頼と平和を訴えるシンボルを生み出す。彼らに共通するのは、人類共通の願いである平和、共存共栄への願いを目の前に具体的な形として提示したことにある。

(5)日本の可能性
日本と世界という対比を通じて日本の可能性を紹介してくれたスピーカーもいた。イエスパー・コールが紹介したのは彼が28年を過ごしている日本そのものだ。様々な経済データに目を向けながらコールは、持ち前の楽観さでもって、日本の明るい将来を展望する。多くの日本人にとって日本の将来は自分事であって得てして悲観的になりがちである。コールは日本を投資対象として、世界の投資家に紹介する立場であり、そうした立ち位置が日本の将来に新たなスポットを当てたのだろう。BMX世界チャンピオンである内野もそうした日本の可能性を具現化させた日本人である。競技者として道を究めた彼は、世界の舞台で活躍する日本人そのものであり、今までスポットライトが当たってきていなかった分野での日本や日本人の可能性を提示してくれた。

(6)表現することの喜び
BMXの内野もそうだが、自分の好きなことを追求する人の明るい表情も印象的だった。なかでも、建築家の手塚の明るさは際立っていた。手塚は自身の手がけた幼稚園の設計を通じて、子供の成長に資する環境についての自身の考えや想いを存分に表現する。写真家のエベレット・ケネディ・ブラウン、発明家のシーザー原田、ゲーム開発者の富永、ギタリストの安達はそれぞれに持ち前のクリエイティビティ、創意工夫の連続により、写真や発明物、ゲームや曲によって自分自身を表現していた。彼ら表現者に共通していたのは自然への敬愛と優しい視線である。写真家のブラウンは、自然の中にあるメモリーを写真に表現しようと試みる。シーザー原田は、人類が環境に与えた悪影響に問題意識を持ちそれをテクノロジーで解決しようと試みる。安達が彼女の「パンゲア」問いう曲で表現したのは地球の歴史だ。彼らのスピーチやパフォーマンスには、自然への敬愛と表現することの喜びがあふれていた。

おわりに
会場は、京都外大の森田講堂が使われた。ブレークタイム、ランチタイムには日本茶やコーヒー、茶菓子がふるまわれ、また参加者を飽きさせないようにスポンサーの紹介ブースがおかれていた。特徴的なのは、京都という土地柄、日本的・伝統的な文化を尊重し、着物姿の女性や、茶の湯が至る所でみられたことだ。さらにTEDの特徴か、外国人の参加者の姿が非常に目立った。中には流暢な日本語を駆使して抹茶を立てる方もいて、日本人・外国人問わず、日本や京都の文化や価値観に共感する方々がこのイベントを支えているのだと感じた。アフターパーティでは、とても美味しい食事とお酒が振る舞われ、京都ならではの「おもてなし」を感じることが出来た。全体の共通テーマは「温故知新」であり、伝統的なことや今まで行ってきたことを継承しながら、新たな可能性を模索する姿勢が随所に感じられ、多くの刺激を受けたイベントだった。


0 件のコメント:

コメントを投稿